いつもご購読いただき誠にありがとうございます。Allecolle編集部です。
2023年2月20日の「アレルギーの日」に公式リリースとなりました本サイト「Allecolle(アレコレ)」。これを記念し、2023年3月26日に初のオンラインイベントを開催しました。ゲストはアレルギーに配慮したスイーツ開発・提供に長年尽力されてきたパティシエ・岡田春生氏(「hal Okada vegan sweets lab」オーナー)。いまや「世界のオカダ」「アレルギーっ子のヒーロー」といった呼び名もあり、アレルギー界隈だけでなくヴィーガン関係の方まで広く信頼を集めるパティシエとして知られています。
イベントでは、今までの経緯や「情熱大陸」出演の裏話、また、ご参加のみなさんから寄せられた「気になる事」まで、話し足りないほど濃いトークがくりひろげられました。この記事では、このイベント内で岡田氏にお答えいただいた内容をダイジェストでお伝えいたします。
岡田シェフの”これまで”について
僕が「ヴィーガンパティシエ」になるまで
もともとホテルに勤めるパティシエだったんです。20年ほど前の話ですね。結婚式やパーティーなどで提供するスイーツを作る仕事をしていましたが、その中でアレルギー対応に関する依頼をいただくことが稀にありました。人数も、1宴席に1名程度とかなり少なく、その際はケーキをオレンジのシャーベットやゼリーに代えて提供していました。また、「アレルギー対応を求められたらないようによっては断って…」とさえ言われていました。
ホテルペストリーでは、宴席以外でもケーキの注文を受けていたのですが、ある日、とあるお客様から「卵・乳不使用の誕生日ケーキ」の注文をいただくことに…。この経験が、僕の『全ての始まり』でした。
アレルギーっ子だったのは当時7歳のお子様。僕は「ケーキが食べられないとしたら、いつもはどうしているのだろう…」と思い、お客様に「バースデーケーキはいままでどうして来られたのですか?」と質問。すると返ってきた答えは「大福にローソクを立てていたんだ」とのこと。…僕には”衝撃”でしかありませんでした。
“洋菓子を閉ざされた世界”がこの世にあると知ってから、僕はずっとモヤモヤしつつ、「この現状を変えるチャレンジをしてみたい」と思うようになりました。
僕の始まりはアレルギー対応パティシエであり、社会の移り変わりによってヴィーガンが近年急速に知名度が上がる中で、ベジタリアンやヴィーガンの方からご支持いただけるようになったので、現在は「ヴィーガンパティシエ」となっていますが実は”ヴィーガンの方が後”だったんですよ。
アレルギー対応スイーツ開発に取り組み出した頃
僕がアレルギー対応スイーツ開発を始めた20年ほど前は、みなさんも記憶にあるかと思いますが、今ほどネットは発達しておらず(ましてSNSといった便利な共有サイトもなかったので)情報源が全くなかった状態でした。そのため、図書館でお菓子関連の本(ペット用のお菓子本も!)をたくさん読み込み、集められる限りの情報を集めました。
お菓子は科学。食材を一つ変えるごとに実験が続きます。僕はまず、皆さんに自信を持って提供できるスポンジとクリーム作りをするところから始めました。
“アレルギーの壁”はたくさんあるけど地道に。
アレルギー対応スイーツの第1段階、卵・乳を抜いたスイーツが作れるようになり、だんだんとアレルギー当事者の方々と触れ合える機会が増えてきた頃、「小麦が食べれない」というお客様との出会いがありました。これが第2段階の幕開けでした。
小麦の代替として使えそうな食材は「米粉」。ということで、小麦と同じ配合にした米粉でスポンジを焼いてみたら全く違う質感のものが生まれてしまい、再び頭を悩ませることに。ですが、こういった実験を一つ一つ重ねて行くことで美味しいアレルギー対応スイーツを生み出していけるのです。
悩ましさを超えて新しく生み出す事も糧。
僕のやっていることは、前例も先人も相談相手もいない、未知への挑戦。だから、過去に生み出したレシピにはあまり頼らず、一つ一つの食材やそれぞれの組み合わせに向き合いながら「自分自身を超え、新しく生み出す」ことをしています。悩んでモヤモヤすることも多いですが、生み出すことがその対処法でもあるので、日々頑張っています。
スランプを救ってくれたのは「一通の手紙」
「ヴィーガンパティシエ」として活動して20年。いままでにもミラクルなタイミングで勇気づけられることが多々ありましたが、その中でも特に印象的だった出来事があります。
これは、卵・乳不使用のケーキを作り始めて3年目くらいの頃。色々なレシピを生み出したという満足感はあったものの、ふと「これ以上進化できない…」と感じてしまいました。見た目を綺麗にすることはできるけど、納得いかなかったのは肝心の”味”。「もうこれ以上美味しくならないのではないか…」と感じてしまい思い悩み、実は再び一般の洋菓子屋への転職すら視野に入れていたほど、スランプに陥ってしまったのでした。
そんな時、『神様のいたずら』のように一通の手紙が僕の元に届きました。差出人はアニバーサリーケーキを注文してくださった方。手紙には「17年間、洋菓子を食べたことがなかったので、今回初めて食べたのですが…」と書かれていました。この内容を読んで、僕ははたと気付かされました「僕がこの挑戦をあきらめてしまったら、この子だけでなく他に同じ想いを持っている多くのアレルギーっ子たちの夢を閉ざしてしまう…!」と。
よく考えれば、僕はケーキを渡した後の様子を見ることができていなかった。そもそもパティシエとは”裏方”。いまは厨房が見えるようになっているお店も増えていますが、以前はお客様とは隔てられた空間で作っていたから、お客様のテーブルに商品が運ばれていくところや実際に食べてくださっているところなど見られなくて当たり前。だから、作った後のことを気にすることすら頭になかったのです。
このお手紙を通じて、「自分がやってきたことがこんなに喜んでくれている!」と知ることができ、大きく勇気づけられたし、いまでもたくさんのお手紙やSNSでのご連絡をいただき、いつも嬉しく思っています。
2022年クリスマスに放映された「情熱大陸」の裏話
たくさんの反響を本当にありがとうございます…!
昨年末、しかもクリスマスの日に放映された「情熱大陸」は、放送直後から予想をはるかに超える反響をいただいており、今も嬉しい悲鳴の真っ只中です。本当にありがたいことですが、同時に新商品の開発もストップしてしまっており、心待ちにしている皆さんにご迷惑をおかけしていることが気がかりではあります…。
番組の収録には3ヶ月ほどの長い期間、ほぼ毎日、担当ディレクターが僕につきっきりで取材をしてくださっていました。初めはやっぱり緊張しますし、言葉も選んでいたんです。ですがディレクターからは「堅苦しさは無くして。私がいない感じで、自然体で過ごして。」と要望があり、3ヶ月の間にだんだんと慣れていった状態でした。
プライベートの部分も取材いただいていたので、(もともと体を動かすのが好きだということもあり)休日には趣味のスケートボードをしに行ったりしたのですが…ね笑。もっと魅力的な場面があったからか、カットされていました。
というか、、、皆さんお気づきでしたか…?僕の回のエンディング、実は番組内では珍しい”オルゴールバージョン”になっていたし、予告映像で使われていた場面(「誰かがチャレンジしないと世界は変わらない」と発言した部分)も本編で登場していなかったんですよ。想定外の編集の連続に「テレビ番組制作って奥深いんだな…」と思いましたね。
結局「米粉の三角チョコパイ」はどうなったの?!
はい…「放送後によくいただく質問第1位」といっても良いほど、皆さんが気になってくださっているところですね。
実は、放送されたあの日が第1回目の試作だったんです。まずは自分の経験則で考えているイメージと実際がどのくらい違うかを見るための試作回ではあったので、失敗は予測していたんです。でも、やってみたら生地が破裂してチョコが”ばーーーん”。職人なら誰しも…のことかとは思いますが、想定していたとしても「失敗しちゃったね笑」と穏やかに捉えることはやっぱりできなくて。いろいろ揃えた上で頑張った分、ゴールできなかった時には悔しくて、つい愚痴もこぼしてしまいます…。そんな場面が放送され、しかもこれがエンディングだったので、より皆さんに「どうなったの?」とご心配をいただいてしまっったのかな…と思ったりしています。
ちなみに、美味しいクリームは完璧にできているので、あとはパイ生地をどう作るか!という段階です。小麦の代替が米粉、という印象が皆さんの中には強いかと思いますが、小麦と米はでんぷん質が全く異なるので、ただ”置き換える”だけではうまくいかないのです。特性を理解しつつ、どうすれば攻略できるのかを考えていかないと…。僕はプロフェッショナルなので、ちゃんと皆さんに納得して提供できる「三角チョコパイ」になるまで試行錯誤させていただきたいです。なので、もう少し、お時間をください!今年の目標として取り組みたいと思っております。
(実は放送の後、たくさんの方からアドバイスも頂戴しました。湯葉や春巻きの皮を使うといった小ワザもご教授いただき、皆さんがチャレンジされてきたという事実にも、使える食材の発見をされていたことにも驚きました。以前はアドバイスをしてくださる方などいなかったので感動しました。)
皆さんから寄せられた質問への回答
一つのスイーツを作るのにどのくらいの時間がかかるのですか?
商品開発にかかる時間は個人差もあれば、開発している時の環境・状況・心境によっても変わります。なので、時には数時間でできてしまうこともあるんです。…ですが実は、別の作業中に開発のことを考えていることもあるので、細かく計測したら長く考えているかも。また、こだわりすぎて微調整に2週間かかることもあったり。
スイーツには一体感が大事だと思っているので、納得できる完成度になるまで調整し続けています。スイーツ作りには「フォークを通すテスト」というのもあるのですが、たとえば「ケーキ」作りなら、一つ一つの層が心地よい「フォークの通り具合」で構成されていて欲しいし、味ももちろんチグハグではいけない。最近は、”映え”にこだわるばかりに、スイーツ全体の見た目や味のバランスを度外視しているスイーツも散見されますが、僕は全てにおいて “一体感のあるスイーツ”をみなさんに楽しんでいただきたいと思って作っていますよ。
なぜ自分ごとではないのにアレルギーっ子の気持ちに寄り添えるのですか?
症状を聞き、適した処方を伝えるお医者さんの感覚と同じように、どんなアレルギーの方でも食べられるケーキを作るために、当事者である皆さんに直接、お話を伺うように心がけているからかもしれませんね。
しかも、以前は口コミだけで広がっていましたが、SNSが主流になった時代に細川真奈さんと出会えて僕の活動の幅が大きく広がったから、よりアレルギーっ子の気持ちに近づくことができるようになったなと思っています。
真奈さんは、自身の経験を元に、同じ境遇の人たちをナビゲートする仕事をされていて、僕はとにかく驚いたんです。自分から連絡を取ることはほぼなかったのですが、おそらく真奈さんは自分からアプローチをした初めての方。一緒に会ってお話をさせていただき、「アレルギーナビゲーター®︎」という仕事により衝撃を受けたのを覚えています。また、真奈さんが僕のスイーツを紹介してくれたことで、アレルギー当事者やそのご家族に一気に拡散され、いまは多くのアレルギーっ子と出会う機会に繋がっており、とてもありがたく感じています。
(真奈さんよりコメント:「本当に食べられるのかな」ってはじめは心配だったんです。でも、とても美味しくて、たくさんのアレルギーを持つ自分としては記憶に鮮明に残る体験でした。また、岡田シェフが「美味しさを追求」することにこだわってくださっているのが印象的で、たくさんの方にこの思いを知っていただきたい一心でお伝えしています。)
■一人でも多くのアレルギーっ子に幸せを届けたい
僕は自分のお店を持つ時に、“「NOと言わない」姿勢”で運営したいと思っていました。だから、より多くのアレルギーっ子が食べられる食材で開発をしたいと思っています。
例えば、ヴィーガンバター。皆さんの中にもご存知の方はいらっしゃるかもしれませんが、ナッツミルクや大豆由来のものが多いんです。たしかにこれを使えば代用はできるけど、一方で、これを食べられなくて悲しむ方もいる。だから「できるだけ使わないほうがいいよなぁ」と思うことも。そんな気持ちも持ちつつも、一旦ナッツありで販売して後々抜けるように努力する、という形を取ることも視野に入れながら商品開発をしています。より多くのアレルギーっ子たちに、美味しいスイーツを食べる機会をできるだけ提供したいので!
アレルギーっ子だけどパティシエになれますか?岡田シェフのお店で働けますか?
よくいただく質問の一つです。僕はいつも「僕がこの業界を大きくするから、働けるようにするよ。」とお答えしています。まだ黎明期であるアレルギー対応スイーツの世界。この世界を目指していただけるようにするのも僕の使命だと思っていますし、より子供たちに身近に感じていただけるように学校と連携した課外授業などにも取り組んでみたいと思っています。
そう言えば先日、製菓学校の女学生から問い合わせをいただきました。彼女はアレルギー持ちでもなければヴィーガンでもないということでしたが、「情熱大陸の放送を見て目指してみたいと思った。知らない世界だったから衝撃的だった。とても興味があり飛び込んでみたい」という熱意を伺いましたね。
(ご質問をいただいたのは10歳のお子様とのことで)一旦はお菓子の世界に…とは思うものの、アレルギーだと学校に行くのは厳しいかなとも思います。でも、学校で習うことは現場では全然通用しないなと感じるし、いろんな知識や技術の基本は学校で学べるけど、“通うことが全てではない”と思っているから、自分に合ったルートを探してみるのも良いかと思いました。
(本記事編集担当の補足:私はプロライターでもプロフォトグラファーでもありますが、専門学校に通ったことは一度もありません。全て、現場での経験と自分の努力でプロの技術・考え方を身につけていきました。岡田シェフがおっしゃるように、教科書や実技授業で学ぶことと現場の過酷さは全く違っていますし、むしろ私のように、まず現場に入ってから他の人の何倍も勉強して、師匠にしがみついてプロになる人もたくさんいます。プロになる方法は1通りではなく、人の数だけあります。そして、その機会に巡り会うには、目覚ましい行動力や貪欲に運を掴み取りにいく力が必要だったりします。大変に聞こえるかもしれませんが、信念さえあれば夢はきっと叶います。ぜひ頑張って欲しいです!)
今後の目標は?
“もっと手軽に手に入るアレルギー対応スイーツ作り”です。コロナ禍の中で通販事業が大きく伸び、皆さんが便利さを実感した一方で、「お店に行きたい・食べたい時に食べたい」という気持ちも顕在化したと感じています。幹線道路沿いに店舗を構えているスイーツ販売チェーンのような世界観を目指したいので全国展開のスーパーなども考えましたが、目指すところは「コンビニ業界で取り扱ってもらえるスイーツになる」ことだと思っています。
コンビニならば24時間いつでも買えますし、“いつでも食べられる安心感”をみなさんに感じていただける。何かを我慢することはストレスですから、なるべく「欲しい時にすぐ手に入る」環境の場所に「hal okada」がある世界にできたらな…と想像しています。
いかがでしたか?
今回は、ヴィーガンパティシエ・岡田氏にお伺いした様々なお話をお届けいたしましたがいかがでしたでしょうか。「へぇ〜」と思うこと、「参考になる!」と思ったことなどがございましたら、ぜひコメントでお聞かせくださいね♡
今は大変お忙しいということですが、機会がありましたらぜひ広尾のお店「hal okada vegan sweets lab」を覗いてみてくださいね。(お店で岡田シェフに面会したい方は事前にご連絡くださいとのことでした。)
■関連情報
■この記事に登場した方:ヴィーガン・パティシエ 岡田 春生(おかだ はるお)
1972年、神奈川・横浜生まれ。
日本菓子専門学校(東京・世田谷)卒業後、今はなき横浜の老舗ホテル「ザ・ホテルヨコハマ」のパティスリー部門に12年間勤務。アシスタントシェフまで務めた。(※この頃に「卵・乳製品不使用」のアレルギー対応スイーツの希望が年々増加したとのこと。)2004年、自然派の飲食企業に転職し、パティスリー部門で「マクロビオティックスイーツ」開発に10年取り組む。
2015年、自らの手で100%植物由来のスイーツを提供したいと、ヴィーガンスイーツ専門カフェ「halcafe229」を鎌倉に開業。2017年11月カフェカンパニー(株)専属のエグゼクティブ・パティシエとして参画。2020年8月同社経営の「hal okada vegan sweets lab」で東京(広尾)開業。